(「久女」を少し中断して)仕事の後、ベネチア国際映画祭コンペティション部門にもノミネートされた、押井守監督の「スカイ・クロラ(The Sky Crawlers」を観てきました。(写真:プログラム表紙) さすがに8月2日の公開から1ヶ月が過ぎており、上映時間帯が18時以降に追いやられ、それも平日とあっては観客もまばらな状況でした。アニメの世界で(実写作品もあるそうですが)押井という、すごい監督がいるという話は噂で聞いていたのですが、「攻殻機動隊」も「イノセンス」も見た事がなく、今回が初めての押井映画でした。その押井プロデュース作品との出会いは、2005年の愛知万博の時の「めざめの方舟」からで、難解なプログラムでしたが、恐ろしい顔をして100体以上も並ぶ巨人像には圧倒されたものでした。最近ではNHKの「ようこそ先輩」で、自身の映画などを例にとって"非日常の風景"の話をしておられましたね。
「スカイ・クロラ」の公開前のメイキング映像をテレビで見ていた時、監督の口から日本アニメの危機の話が出たのはショックでした。なんでも若い映像作家を育てて来なかったツケが、回ってきているというのです。アニメは日本のお家芸で、世界のトップを走っているものと思っていたのに、そんな最先端みたいな世界でも、アニメ技術に対する若手育成が、されていないというのでした。さてそんな監督が出合った原作本が、ミステリー作家・森博嗣(ひろし)氏の「スカイ・クロラ」シリーズでした。 Sky Crawlersとは「空を這い回るもの」という意味で、主人公は「キルドレ」と呼ばれる成人にならない子供(といっても青少年という感じ)です。彼らは戦争請負会社のパイロットとして、大空を舞台に敵の戦闘機を撃墜する空中戦を演じるのです。戦争自体はショーですが、そこでは実際に戦闘員であるキルドレ達が死ぬ事で、人類に現世が平和であることを継続して認識させるため、公認ルールに基づいて戦争が行われているのです。 映画の進行にしたがって分かってくるのは、あるパイロットが死ぬと、新たなキルドレのパイロットが補充されてきます。カンナミ・ユーイチもそうしたパイロットでした。上司の女性基地司令官クサナギ・スイトもキルドレですが、新しく配属されたユーイチに、かつての恋人であるクリタ・ジンロウの面影を抱いてしまいます。噂ではジンロウはスイトに銃で撃たれて死んだといいます。生きてさえいれば永遠の若さでいられるキルドレの中でも、スイトはパイロット達よりもずっと長生きして、繰り返し繰り返し、愛と別れの日常を継続してきたのです。 一方配属されてきた、ユーイチ達のような新しいパイロットは、子供の頃の成長記憶さえ覚えていないのに、まるで他のパイロットの操縦技術を移植されたかのように、戦闘機を操作できるのです。ある新任パイロットなどは、亡くなったパイロットのクセまでそっくり受け継いでいるかのようにふるまいます。こうした点でスイトは初めてあったユーイチに、優秀なパイロットだったジンロウの面影を見いだし、二人の関係は深く結びついてゆくのですが、それはスイトにとっては自身が永遠の命を持ったキルドレであることから来る、物事が永遠に繰り返し、終りがないかにみえる破滅的な愛でした。 スイトもパイロットとして出撃し、敵である無敵のエースパイロット「ティチャー」に戦いを挑みますが撃墜され、なんとか生還します。スイトが精神的に異常をきたしている中で、ユーイチはスイトに「君は生きろ」と言い残して出撃します。出撃のさなかユーイチは、 「いつも通る道でも違うところを踏んで歩くことができる。いつも通る道だからって景色は同じじゃない。何もかもが同じことの繰り返しとはかぎらない。」とつぶやき、そして「ティーチャー」に空中戦を挑むのでした。結末は・・(自分で観てくださいね。(笑) ただ言えることは最後の最後まで観ることです。そうすると物語は・・でも次はきっと何かが・・と思いたい!!) ということで、ストーリーを追うだけで、かなりページを使ってしまいましたが、押井監督のメッセージはユーイチのつぶやいた言葉にあります。人それぞれそのメッセージについて感じ方は違うのでしょうが、死ぬまで果てしない戦争を続けるキルドレも、一般市民である私たちもそれほど変わりはないんだ、と思いました。大事な事は同じような毎日でも、「意識を持ってその小さな違いに気付こう」と言われているんだと思いました。「昨日そこにいた僕は、今生きている僕じゃない。何か昨日と違っている僕になっているはずだ。」 ほんの小さな変化でも、もしくは変わっていなくても、昨日より何か少し違っているはずだ、という意識を持って生きてみると、この世に生きている何かの足跡を残せるのかもしれません。
by ttru_yama
| 2008-09-04 00:09
| 本・映画・ドラマ
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