さてまた書くとは思っていなかったスカイ・クロラ-2です。(笑) 東京都美術館で開かれているフェルメール展に行く途中、本屋さんで押井守著「他力本願~仕事で負けない7つの力~」(2008・7・30発行、幻冬舎)を(何故かMOEの10月号とともに)買ってしまいました。で、最初は[何だろう?、この小難しいビジネス本まがいのタイトルは?!]と思いましたが、開いてみると「スカイ・クロラ」の映画製作に関し、押井さんがどのように情熱を持って進めてきたかという本でした。巻末には彼の生い立ちからスカイ・クロラ製作までの映画人生が綴られています。(この部分はつつみ隠さず赤裸々に書かれているので、これを見ると監督の見方が変わるファンもいることでしょう)
ただこの本にはさまざまな挫折と失敗を重ね、映画に打ち込んできた押井さんの仕事哲学が、その貴重な経験を通し具体例をあげて分かり易く書かれおり、読書スピードの遅い私でも一気に読んでしまいました。特にスカイ・クロラは観たばかりの映画なので、「ああ、あのシーンはそういう意図を含んで作られていたのか」とか、映画製作の関係者と何度も「こもり」とよばれる、缶詰状態の企画会議を続け、世界の監督をうならす押井映画が作られてきた事が良くわかります。特にこの本のタイトルである「他力本願」という言葉は、押井監督が自分よがりで興行的に失敗した過去の映画製作から学び、自己を持ちながらも他人の意見を慎ましく聴き、自分一人の力だけではどうにもできない映画という大きなプロジェクトに、他人の協力を得ながらあたっていくことが意味されているようです。 ここからは、映画を観てからのほうがいいと思いますが・・ということで、私が本を読んでから後追いで感じた事です。映画の最中で気がついたのは、音響の素晴らしさです。空中戦の爆音や機銃音はハリウッドの「スカイウォーカー・サウンド」が担当しているのは、TVの「メイキング映像」で知ってはいましたが、そういうメカ音の話以上に感じたのは、ドアを閉める音でした。「バタン」と閉まるだけの音ですが、ドア自体は画面には写っていないのに、画面の奥行き外でドアが閉まるのです。映画は5.1チャンネルの音響システムですので、画面に写ってなくてもどこのドアが閉まったことが、感覚でわかります。「見えていないドアを感覚で知しらしめる。」ここが押井映画のこだわりなのでした。そしてその音は成長しない子供であるキルドレ達の耳には少し大きく感じるはずだ、ということで普通の映画以上に大きいのでした。 最初の戦闘シーンで空が映りますが、なんてどんよりした空の色、雲の色かと思いました。でもそれは日本チームのある兎離州(うりす)基地を描く為、アイルランドの鉛のような空をロケして採り入れたものでした。その重苦しさはいかにもキルドレ達の閉塞感をも意識的に表現しているのです。また同僚のトキノがユーイチの度胸を試すべく、した訓練飛行で使った山の崖もアイルランドです。 本の言葉に感銘したのは、「偶然は起こらないアニメーション。すべて意図的に演出する。」という言葉です。まあ人物も背景も「無」から作っていくアニメーションですから、当然と言えば当然の話ですが、映画には偶然(たまたま役者の偶然の演技に助けられたとか、たまたま撮った構図が良かったとか)があるのとは違い、アニメーションでは「全てのカットに意味があり、そのように作り込んでいる」ということです。キャラクターの表情から構図まで、全て作り込んで映画にするアニメーションでは、偶然は起こらず「作り手の意図がそのまま映像となる」、というのです。 こうして意図的に作り出す映像ですが、どうしてもまだキャラクターの表情表現では、まだ本物の俳優に敵わないと言います。アニメのキャラクターが表現出来るパーツは目と髪の毛くらいだという話もでてきます。もちろん口も当然あるのでしょうが、髪の毛というのにはびっくりしました。特に今回のヒロインであるクサナギ・スイトには司令官でありながら、内面は破綻しそうにかよわい女という面ももっており、押井監督が最初に参考提出されたショートカットのキャラクターをやめ、おかっぱ姿にこだわったことが書かれています。髪の毛の1本1本にスイトの内面の表情を託したいと考えたようで、確かに髪がなびいたりする表情は映画に活かされたように思います。まだまだ細かい映画作りの話がいっぱいあるのですが、これくらいにしておきましょう。 にわかびいきですが、ベネチア映画祭のコンペティションにノミネートされた「スカイ・クロラ」の入賞を願わずにはいられませんでしたが、残念ながら今朝、日本勢(「崖の上のポニョ」、「アキレスと亀」、「スカイ・クロラ」)は主要賞は逃したニュースが流れてきました。「スカイ・クロラ」は特殊効果賞(フューチャーフィルムフェスティバル・デジタル賞)に選ばれました。でもこの賞なんか画面全体に流れる、押井監督のこだわりがもたらしたものだという事を、本を読み終わった今そう確信できるのでした。
by ttru_yama
| 2008-09-07 15:37
| 本・映画・ドラマ
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