071208 フェルメール「牛乳を注ぐ女」への道の続き(最終章「牛乳を注ぐ女「The Milkmaid」1658-1659)です。(このポストカードでは右方向が少しカットされています) 東京国立新美術館での対面からすでに5ヶ月、記事をもったいぶって最後にしていたので、その間に記憶は薄れ、書こうとしていたこともおぼろげです。(笑)
この絵は最初の「黄金時代」の風俗画コーナーが終わり、次の部屋に移る曲がり角の前に絵の解説やら分析コーナーみたいな一角があり、表面上からの解析やX線写真や赤外線写真による科学的な目でも絵の分析をビデオ等で説明していました。 こういう蘊蓄コーナーは絵を深く観るために重要な場合もありますが、時として種明かしを先にするマジックを見せられるような一面が有り、鑑賞上で主題がそちらに流される危険な一面を備えています。できれば解説は後にしてまず本物を見させてから、解説コーナーを後に付け加えた方が良いのでしょうが、フェルメールのような人気展においては、ギャラリーの流れを後戻りさせることのないような配慮が必要だったのか、解説コーナーが先に置かれていました。隣の実物の部屋への入口は広くて、行き来が自由にしていることからも主催者の意図(本物を見たい人はお先にどうぞ)が何となく汲みとられました。 実物の絵は45.5×41cmの絵で、小さな絵だとは思っていたものの、その思いをさらに下回る印象でした。解説コーナーでも同様ですが美術番組等で、各部が細かくクローズアップされるので実物以上に大きな絵だと刷り込まれているのです。ただ会場に取り付けられた絵はやや高めにあり、間近とはいかず仕切りのため少し離れて見なくてはなりません。こうなると解説コーナーも別の(映像を通して間接的にはなりますが、間近で観るという)意味を持ってきます。 さて絵(写真は塗り絵の原画見本より)はメイドが固くなったパンを煮込もうとして、鍋にミルクを注ぎ込んでいる一瞬を描いています。ただそれだけの絵なのですが、絵のリアリティさ(机の角度がおかしいとか、調理する場としては位置が不自然だとかいうことを除いて)も相まって、ミルクが流れ落ちて行く瞬間を切り取ったフェルメールの魔術に囚われることとなります。メイドの視線もミルクに注がれていますが、鑑賞者の眼も流れるミルクの一筋に注目させられます。(この絵の消失点は、メイドの注ぎ手の上にあるそうです) よく言われるようにこのミルクは注ぎはじめた所か、注ぎ終わろうとしているところか、それとも中間なのかそんな事も思ってしまいます。でもすでにその時点で鑑賞者はフェルメールの意図した、魔法にかけられているように思います。フェルメールはとにかく、この瞬間を見せたかったに違いありません。その主体を浮き上がらせるため、フェルメールは壁の絵(地図?)を消し、足元のあんかの後にあった洗濯籠を消し、瓶を支える左腕を書き直したり、パンのリアリティを増す為に砂粒を混ぜ、青衣を描くため高価な宝石を砕いて作った(俗にフェルメールブルーと呼ばれる)、ウルトラマリンを惜しげも無く使ったことでしょう。 かくして、「真珠の首飾りの少女」においては、少女が振り向いた動から静への一瞬を捉えたように、このミルクメイドの絵ではミルクが注ぎつがれる瞬間が、永遠の時間となって流れていきます。
by ttru_yama
| 2008-05-11 17:39
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